鎌倉ヤマガラ日記

鳥の話はあれども野鳥観察日記ではない似て非なるもの

蜂たちの羽音

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親指の爪ほどもない黒っぽい小さな生き物は
詰め草の濃い緑に隠れてすぐには見つけられないが
沸き上がるような五月の風に混じって近づいてくる
柔らかな低音の羽音ははっきりと
そして耳をくすぐるように幾つも聞こえている
蜂たちが春が育てた初夏を集めにやってくる
長く伸ばしたくちびるで花を深く愛撫するように
休むことのない訪れと飛行という愛の繰り返し
群れをなす生き物の個体ひとつひとつの飛翔を
ほのかに草の香りをつけた甘い蜜が惹き寄せる

 

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思いのほか強靭で密集した匍匐茎に驚きながら、繁茂し過ぎた感のある詰め草を少しだけ刈り取って小径を作った。
独特の草の匂いが広がる。
梅雨が近づいているのなら、その前に小さな畑の緑の肥料も刈り取って、土を耕さなくてはならない。
どうしてこんなにゆっくり時の経過をまるで傍観するように過ごしていたのか。
それは詰め草たちの花が咲いて開くのを待っていたからだ。
早めに植え付けたり種を播くものは今年は諦めていた。
すべて「清楚」と「復讐」の花言葉を持つ詰め草の花を見たいという、それだけのために。

そして、そこへ彼らがやってきて羽音を鳴らすのを聞くために。

 

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最初に見たとき私はそれがハナアブではないかと思ったものだ。
いつの間にか私の頭の中でミツバチは大きくなっていて、それがセイヨウミツバチでも2センチ足らず、ニホンミツバチでは15ミリに満たない小さなな昆虫であるということを忘れてしまっていた。
ミツバチはお伽話か、そうでなくても接写された動画の中で見る「大きな」な生き物になってしまっていたのだ。
あらためて、その小さな姿にみとれていた。
何本ものリング状の節が見える長い触覚、左右の複眼の間の額部分に並んだ三つの単眼、くびれた「腰」、本当なら四枚あるはずなのに繋がっているのか二枚にしか見えない透き通った羽、みな肉眼では不確かにしか見えないが、レンズを使う写真という方法ではすべてが明らかだ。
そして花の奥の蜜を求めて差し込まれる長い口吻。

シロツメクサもアカツメクサも蜂たちの来訪に美しさを増して輝いているようにさえ見えた。
もうすぐ五月も終わろうとしているのだ。

 

(2017/05/29)