庭に来るヤマガラたちが私の手に飛び乗ってヒマワリの種を啄むようになってからまだそれほどの時が経っていない。
飛び込んでくる者と警戒して途中でとんぼ返りしてしまう者とが半々。
それもよし、野生を忘れるな。
しかし、それにしてもヤマガラは実に人懐こい鳥だと思う。
遠くからじっと眺めているかと思えば、つっと近づいては私のすぐ側で急転回する。
かと思えば、手には乗ってこないのに足元に降り立って見上げてくる。
遠く近く、近く遠く、その変化する距離のとり方を私は楽しんでいる。
見事な曲線を描いて登り降りする勢いは名前にカラ(雀)の付く鳥の中でも抜群なのではなかろうか。
喧しい雀はじたばたと下手なホバリングをするし、ふっくらしたシジュウカラはどこかおっとりとした飛び方なのだが、ヤマガラの飛行はとても素早く野性的で、なおかつ、その飛行軌跡は実に美しい数学的曲線だ。
ヤマガラの飛翔は鋭い曲線だ
かれらは風の中の小さな旗
ぶぶるるぅんとウィングをスイングして
自分で風まで作り出してしまいかねない旗なのだ
私は私で、例の、ヤマガラがヒマワリの種を振って鳴らす小さくて軽快な音を聴き分けようとしている。
その音は勢いのある(私の顔近く飛べば風圧ですらある)ヤマガラのぶぶるぅんという羽撃き音よりも遥かに小さい。
小さいのだが、その小さな音は、生きる上で、食っていく上では、飛ぶことに勝るとも劣らないはずだ。
Lovely Varied Tits on My Palm てのひらヤマガラ
どこかで犬の中途半端に吠える声がする。
他の鳥たちの声が交じる冬の空気の冷たさが快い。
近所の老夫婦が大きな声で何事か言い争っているのが聞こえてくる。
あの歳で長々と言い合えるのは仲がいい証拠なのだろう。
どこか林のほうからタイワンリスのゲッゲッという警戒音が聞こえてくる。
あいつらも冬を生き延びなくてはならないのだ。
今日のように晴れて風もない日には、物音はみな生きた者たち、生きている証の音だ。
(2016/01/08)