鎌倉ヤマガラ日記

鳥の話はあれども野鳥観察日記ではない似て非なるもの

窓辺の実験室(2)

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違う日の写真だが右側遠くに居るヤマガラはおそらく同一個体
手前のシジュウカラは大きさがやや異なるようなので別個体か

 


窓辺で野鳥を相手に実験的な試みをしてみようかと思ったとき、考えていたことが幾つかあった。

 

 

 

(1)開かれた空間

 

実験室というか実験パネルは屋外に向かって設置されており、被験体は飼育されていない野生の鳥たちである。
つまり鳥たちは私に飼われているわけではなく餌を探して自由に飛び回ることができるわけだが、このことは結構多くの要因を含むことなのである。
実験用に飼育された動物たちは「食べる」ことに関して飼育者に全面的に依存している。
いわば、「食べる」ことに関しては、実験環境という「閉じられた」環境に居て、飼育者が餌を与えなければ餓死することになる。
しかし、野鳥であり自由に飛び回れる鳥たちは、「食べる」ことに関して人間に依存してはいない。

このことは言い換えると、飼育されている鳥たちは人間の勝手な要求に従わなくてはいけないのだが、野鳥は人間の要求が不愉快である、あるいは「勝手過ぎる」と感じれば、窓辺の実験室に来なければいいだけだ。
あまり良い例えではないかも知れないが、会社などの組織に常勤するサラリーマンと、いわゆる自由業、契約社員などとの違いのようなものである。

となると、鳥たちに何かを教えるとして、優しい内容で鳥にとって簡単に餌が手に入るようなことであれば、鳥たちは喜んでやって来て学ぶだろうが、難しい内容で手間がかかるか労力を必要とするようなことであれば、窓辺にはやってこない方を選ぶ可能性が高くなる。
もちろん、餌が潤沢に手に入る春夏秋とそうでない冬では条件が違い、冬には難しい内容でもとにかく餌が手に入るなら鳥たちはやってくる。
つまり、ここには少し複雑な需要と供給の関係があるし、エコノミーのオープンかクローズドかという問題もあるだろう。

要は鳥たちに嫌がられない範囲で頑張ってもらえるように、魅力的な場所にしなくてはいけない。
いわば、鳥たちを誘いつつ学んでもらうという姿勢がどうしても必要になる。

実は、この「魅力的な場所」は実験パネルの窓辺という狭い空間だけには限定されない。
例えば、庭に餌台があり、そこに潤沢に餌が在るのであれば、わざわざ実験に「参加」して努力し餌を手に入れるよりは、ただ、餌台に飛来してきて餌をついばんで行けばよいことになる。
しかし、逆に庭の餌台に一切餌を置かないとすると、「この辺り」は魅力的でなくなり来る鳥が減少する可能性がある。
実験パネルの餌、庭の餌台の餌、それだけだろうか。
私の知らない近所に魅力的な餌場があるかもしれないのだが、この近所の餌場はアンビヴァレントだ。
その近所の餌場が超魅力的であれば、こちらの庭にも実験パネルにも鳥は来ないだろうが、程々に魅力的であるものの満腹になるほどではないならば、近くでもう少し餌を探そうと実験室にも飛来するだろう。
「魅力的な場所」は多重的にとらえなければいけないことになる。

実際に鳥たちはある種の群れを作っているようで、彼らは別の時間にやってくるのではなく、競い合うようにある時間帯に集中して現れる。
そして、またしばらく、一羽も来ない時間帯があり、その二種類の時間帯が周期的に(?)繰り返す。
この「ある時間帯」や周期は、鳥たちの餌を探す空間の広がり、他の餌場の位置や数などによって決まってくるはずだが、その空間、餌場などは上に書いたように多重的に考えるべきだろう。
もちろん、そこには季節や天候という要因もある。

 

(2)個体識別の問題

 

野鳥であるから、よほど特異的な体型か行動様式(癖)を持っているのでない限り、それぞれの個体を識別することは難しい。
実験パネルにくるヤマガラの中には大きくて堂々とした個体もあれば、まだ若く小さい個体もある。
大小の区別はついても、大きい個体2羽、小さい個体2羽を区別するのは簡単ではないだろう。

となると、どの個体がどこまで学んだか、どの個体がこういう傾向を持っているのかを確認することは困難になるはずだ。
鳥に標識を付けることはしたくない。

しかし、実際に窓辺に来て、実験パネルであれこれ行動する鳥たちを見ていると、明らかに「こいつはアノ(例の)鳥だ」と分かる場合もある。
執拗に大きな声で地鳴きする者、遠い止り木をやたらつつく者(特にこれは迷信的に行動している可能性がある、つまり間違った学習をしてしまった例か)、あるいは、堂々として他の鳥たちとは徒に争うことをしない者、初期に見られたキーキッカー、特に左右どちらかのキーを叩く傾向のある者などなどだ。
外見的にも、羽の色の相違(特に光の反射しかた、つまりは輝き方)、あるいは、羽毛の模様の特異的な場合などで区別できる場合もあるが、これは、常にそういう状態が保たれているという保証はない。

こうした理由もあって、私は最初から個体識別して実験を進行させることは考えなかった。
むしろ、マスで、集団としての結果を眺めるという方針だったのだ。
言ってみれば、「個体」ではなくて統計的な「集団」の構成員として鳥をとらえるということである。

ところで、最近は、ヤマガラ数羽に加えてシジュウカラもキーを押して餌を取ることを覚えたものが2,3いるので、種の違う集団(混群)全体の行動を眺めるということになっている。

 

(3)個体間関係

 

「混群」という言葉を使ったが、それは、ヤマガラだけの群れでなく、少なくともヤマガラとシジュウカラの群れだということだ。
考えもせずに感じるところを言えば、この「群れ」は私のイメージでは「家族」「血縁」あるいはもう少し拡大しても「仲の良いグループ」というものに思えるのだが、実情はかなり違うもののようだ。

「群れ」というとどうしても日本人はニホンザルの群れを思い浮かべがちかもしれない。
ライオンの群れも象の群れも日本では自然界にはいないからかもしれず、また、日本が世界に誇る(?)サル学なるものがあるからかもしれない。
そういうサルの群れでは、ボスが居て云々、小猿を背負ったり抱いたりしている母猿の姿、ボスの地位の争奪戦とかが常識的に思い浮かぶ。
もちろん、そこで、群れには身の安全や一緒に餌を探すという重要な共通利益があって、協力しあっているイメージだ。

同じ「カラ」類だといっても、ヤマガラとシジュウカラは種が違う。
それが一緒に行動するのは何故なのか、私はよく知らない。
実際に彼らは一緒に移動してくるのに、協力しあっているようには余り見えない。
ヤマガラとシジュウカラの間の関係でも、同じヤマガラ同士でも、餌を取り合う関係のように思える。

動画はまだ紹介していないが、窓辺の実験パネルは「闘争の場」でもある。
ある鳥がキーを押して餌皿を開け餌を啄もうとしているところを後ろから別の鳥が驚かして餌を掠めたり、他の鳥が開けた餌皿を上からやってきて餌だけ掠める強者も居る。
それだけではなく、実際に鳥同士で諍いがよく起きて、攻撃や威嚇音で喧しいことになる。
これは協力関係とはとても言えない有り様なのだが、それでも「群れ」を成すものらしい。

定かではないが、シジュウカラはヤマガラを追いかけてやってくるのかもしれない。
ヤマガラのほうが先に餌場を発見する傾向にあり、シジュウカラは後から気づくようにも思える(ここだけの例かも知れないが)。
そして、後ろから襲って餌を掠める傾向もシジュウカラのほうが確率的にかなり高い。
そういう性質の鳥たちなのだろうか、それとも、ヤマガラが先に実験パネルに慣れて餌を手に入れられるようになった結果、シジュウカラが掠める役回りになっているだけなのだろうか。

さて、そういう餌争奪関係がよく見受けられるのだが、そうではない場合もないわけではない。
やや粗いネットカムの写真を載せたのがその例で、連続して撮影した写真のように見えるかもしれないが、一日あいだを置いた別の日の写真である。
図下にも説明を入れたように、この二羽はヤマガラ(右奥)とシジュウカラ(左手前)で、いずれもキーを押して餌皿を開け、餌を採ることができる鳥だ。
ほぼ同じ方向を向いているが同じ方向を向く明確な理由はなく(いや、これについてはまたいずれ書くことにしよう)、ほとんど偶然だと言ってもいいと思うが、右のヤマガラは実験パネルから遠く、左のシジュウカラのほうが今キーを押そうとしているところである。
こういう状況になった経緯は以下のとおり。

 

(a) ヤマガラがまずやってきて一番遠くの止り木にとまったが、ほとんど遅れることなくシジュウカラも到着し、束の間だがシジュウカラが威嚇音を出した。
(b) そういう場面ではヤマガラが威嚇し返して勝ちシジュウカラを追い払ってからキーと餌皿に向かうのだが、この場合は、ヤマガラのほうがプイとそっぽを向いて写真のような体勢になった。
(c)このヤマガラはおそらく群れの中では一番大きく堂々としていて、最初にキーを押すことを学んだ個体であり、力関係で弱いとは思えない。
(d)そこでシジュウカラが実験パネルに近づいてキーを押すのだが、3回押さないと餌皿が開かないようになっているので、2回押したところで後ろが気になったのかヤマガラの方を振り返ったのが写真の場面なのである。
(e)ヤマガラがそっぽを向いたままなのでシジュウカラはキーをもう一回押して餌を手に入れてその場を去ったが、ヤマガラは数秒以上この体勢のままで遠くを眺めている様子で、ややあってからキーに近づいて一気に3回キーを押して餌を手に入れた。

 

同じような写真があるだけではなく、このような行動の流れを何度も観察しているので、キーを押した回数まで書いている。
因みにこのヤマガラは、より小さなヤマガラにも席を(?)譲って遠くを静かに眺めていることが何度もあったのだ。
私の印象ではこのヤマガラはボス然としているなと感じるのだが、果たしてそうなのだろうか。

というふうに個体間の関係がそれぞれの鳥のパーフォーマンスに影響する可能性は非常に高いのである。
他にもいろいろ例があるが、また別の機会にしよう。
とにかく、窓辺のオープン・スペースでこういう実験をしてみようと考えたとき、こうした様々な要因が在ることを私は覚悟していたし、それが面白くてやっているところもあって、顕著な結果が有ってもなくても、趣味としてやっているようなものなので気楽なものである。

 

実験パネルも徐々に改善(?)されていて、現在の様子はこの二枚の写真からだいぶ変遷している。
ArduinoMegaとArduinoUno、WiFiとサウンド用のシールドで制御している実験装置については、またいずれ書く。
装置をあれこれいじり、刺激も三色のLEDだけでなくスピーカも左右2つあり音声も登場しているのだが、懲りずに付き合って参加してくれている鳥たちに感謝、感謝である。

ところで全く意味のないことだが、この先譲り行動の写真の二枚目は2月14日だった。
まあ、義理チョコならぬ義理ヒマワリというわけでもないだろうが。


(2017/03/10)