8/9
白樺が笑った
夜の露天風呂の暗がりの向こう
昼間半袖では寒いほどだった空気が
裸なのに今は爽快だ
白樺の向こうに谷間の流れを見て
立ちつくす
忘れがたきその時のこと
この柔らかな硫黄の匂いの
なめらかにきらめく湯のなかの今を
私はいつまで覚えているだろう
8/10
コバルトブルーの山影の間から
流れ来る雲の海
輝く白い生物が
いつまでも空間を覆っている
かって旭岳から尾根を緩やかに辿り
石室でキタキツネに出会った
あれはもう夏の終わりだった
今はまだ夏
8/11
木々と丘
青池と白鬚の滝
歩いて行く
ずっと歩いて行く
白樺の森まで
萎縮したような
宙ぶらりんの枝を身にまとって
屹立するエゾマツの
説明のしようのない美しさ
この木は私の生き方に
何かを教えようとしている気がする
8/12
緩やかな
しかし壮大な起伏
近づけば丘になってせり上がり
遠のけば平野のごとくに広がって
身を横たえる
二次元の大蛇の群れ
背の高いポプラを
幾本も幾本も風が揺らしていく
細身の無口な巨人のようなポプラが
声のない歌を歌いながら
乱流のリズムを楽しんでいる
緩やかにうねる丘陵しかないこの土地では
風とポプラは
お互いにお互いを必要とする生き物なのだ
風とポプラの交歓を歌った詩人は多い
それだけ彼らの交流は長いのだ
そして余りにも風に馴染んだために
ポプラは風の形を受け入れてしまったかに見える
8/13
土の匂いのする太い足を持った
たくましい馬たちのばんえいレース
競うのは速さではない
力なのだ
夜の照明の中で
追いつ抜かれつ橇を引き
それでも勝負は一通り
(2017/11/30) 随分と時間が経ってから抜き書きして掲載
この時間の経過は私が考え事をしていたからだ
言葉に見合う写真はいずれまた